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世界初,民間商用超小型衛星による北極海観測(株)アクセルスペース 中村 友哉

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 2013年11月21日,宇宙開発の歴史に新たな1ページが刻まれる。
 従来,宇宙開発は重厚長大産業の最たる例であり,そのリスクとコストの大きさから,国家のみがその責を担える存在であった。超小型衛星の登場により,その状況が大きく変わろうとしている。コストが従来の衛星の1/100以下になり,民間企業であっても宇宙を利用できる時代になったのだ。
 自社衛星の保有を決断したのは,世界最大の気象情報会社(株)ウェザーニューズ。近年の温暖化により北極海を航路として利用する計画が現実のものとなりつつある。ウェザーニューズ社は,北極海監視専用の自社衛星WNISAT-1によってより高頻度に,そしてよりリアルタイムに北極海の状況を把握し,より確度の高い安全情報を顧客の船会社に提供できるようになる。WNISAT-1の外観を図1に示す。
 WNISAT-1が北極海航路監視のために搭載しているのは,市販の産業用レンズとCMOSセンサーを組み合わせた2台のカメラである(図2)。近赤外光カットフィルターと可視光カットフィルターを1つずつ装着することで,それぞれ可視光用,近赤外光用のカメラとしている。近赤外光カメラは,可視光観測と合わせて氷と雲の判別を行うために搭載された。このカメラに必要とされる地上分解能は500 m。非常に粗いが,船の通航という観点から見ると小さな氷塊を判別できる必要はない。通信量の限られる超小型衛星では,一度に広い範囲の状況を把握できることがより重要とされた。このため,特注品なら数億円かかるような宇宙用光学系が,たった数十万円で構成できた。
 WNISAT-1には,追加ミッションとして近赤外光レーザー照射装置が搭載されている(図3)。このモジュールからは2種類の波長のレーザーが照射されるが, 1つは大気中の二酸化炭素により吸収されやすく,もう1つはほとんど吸収されない。このため,地上でこの2種類のレーザー光の受光強度を比較することで,パス中の大気中の二酸化炭素濃度を推定できるというわけである。科学的に精確なデータが取得できるわけではないが,一般の方にレーザー受光実験に参加してもらうことによって,衛星への興味と気候変動への関心を深めてもらうことを目的としている。
 WNISAT-1の開発を行った(株)アクセルスペースでは,続く2014年2月にも「ほどよし1号機」を打ち上げる。ほどよし1号機は地上分解能6.7 mのマルチスペクトル画像を取得できる質量60 kgの超小型衛星であり,内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の助成により開発された。本衛星のミッションはビジネス実証であり,来る超小型衛星利用時代に向けて産業化に取り組んでいく。
 広がりつつある超小型衛星の可能性に,ぜひご注目いただきたい。

参考URL

  1. 株式会社アクセルスペース http://www.axelspace.com/

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