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大型構造物の遠隔からの微小変形計測和歌山大学 藤垣 元治

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 近年,インフラ構造物等の延命化や健全性の評価を効率よく行うことができる新しい計測手法が求められている。橋きょうりょう梁や鉄塔などの大型構造物の変位を遠隔から計測できると,効率よく不具合の検出ができるようになる。
 光学的な計測手法として縞画像の位相解析がよく用いられている。1枚の縞画像から精度よく位相解析ができる手法として空間的縞解析法1)が提案され,干渉縞等の位相解析に用いられている。これを2 次元格子の位相解析に拡張することで,1枚の2次元格子画像から2次元の変位を同時に求めることができる。著者らはこれをサンプリングモアレ法と呼んでいる。物体表面に固定された2次元格子を用いるために,カメラの設置位置についてのキャリブレーションの必要がなく,屋外現場での使用に適している。最近,このアルゴリズムをカメラ内部に組み込むことでリアルタイムに変位分布が出力できるサンプリングモアレカメラを開発し,インフラ構造物の変位計測に適用する研究を進めている2)。
 その適用例の1つとして高層ビルの変位計測を行ってみた。図1 (a)は,高さ828mの超高層ビルの変位計測実験を行っている様子である。この立派なビルはアラブ首長国連邦のドバイにあり,現時点では高さ世界一である。ビルから約1.3km離れた位置にカメラを設置した。窓枠を2次元格子とみなすことで,その位相解析を行い,そこから変位を求めた。図1 (b)に示すように,高層階(150階付近)を20分間連続して計測を行ったところ,時間とともに約20~程度変位するという結果が得られた。この直後にビルの低層階(30階付近)を同じ方法で計測してみたところ,図1 (c)に示すように,ほとんど変位は得られないという結果となった。
 この時,日の出後2時間ほどたっており,写真の右手方向(東方向)から太陽の光が当たっていた。ビルの東側が熱膨張してビルの高層階は西向きに変位するのではないかと予想していたのであるが,結果は逆で東向きに徐々に変位している。ビル内部は年中エアコンが効いているために,壁面が暖められても熱変形はしないのかもしれない。このあたりはよく分からない。本当に計測できているのかどうかという疑問もまだ残る。旅行好きの著者としては,これらを確かめるためにもう一度訪問したいと思っているところである。

参考文献

  1. Y. Arai, S. Yokozeki, K. Shiraki, and T. Yamada : “High precision two-dimensional spatial fringe analysis method,” Journal of Modern Optics, Vol. 44, No. 4, pp.739-751(1997)
  2. 藤垣元治,原卓也,生駒昇,村田頼信:“ 列車通過時における鉄道橋の動的な変位計測へのサンプリングモアレカメラの適用”,実験力学,Vol. 12, No. 3, pp.35-40(2012)

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