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光の往来を仕切る銀ナノ石畳富士フイルム(株) 納谷昌之,谷武晴,白田真也,清都尚冶,鎌田晃,大関勝久

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 もともとが写真の会社であったので,「自然に見える」ということへのこだわりが強い。だから,省エネに貢献する窓用遮熱材料を作ろうというときにも,太陽光の50%を占める近赤外光は反射するけれども可視光はしっかりと透過する,という大それた目標が立てられてしまったのだ。今や携帯電話の時代だから,電波も通さなければいけないし,工業的に製造可能であることはいうまでもない。それらをすべて満たす構造を見つけて設計せよ,というのが光学部隊に課された宿題であった。
 金属ナノ構造のプラズモン特性に基づく現象が使えるのではないか,という発想をもとに,われわれは検討を開始した。プラズモンは,金属を満たす自由電子と電磁波である光との相互作用状態のことで,特定の波長の光を吸収・散乱・反射する現象として観測される。古くからステンドグラスの色を出すための技術として有名であるが,金属微細構造を制御して所望の光特性を人工的に作ることが可能であることから,現代では,ナノフォトニクスの一分野として大いに期待されている領域である。
 光の電磁場特性を精密に計算する時間領域差分法によるシミュレーションと実験との照合を繰り返し,たどりついたのが銀のナノ平板を同一平面上に満遍なく敷き詰めるという構造だった。ナノ平板構造によって,プラズモン共鳴のエネルギー散逸を反射に多く振り向けることが可能となる。平板の径や厚みによって反射スペクトルを近赤外に調整することも可能だ。そして,同一平面上に重なることなく並んだディスク同士の近接場光による集団的な相互作用が可視光の不要な散乱を抑制するのだ。光の波長よりも小さなナノ構造で特殊な光特性を人工的につくり出しているから,これも立派なメタマテリアルである。
 問題はこんな構造が量産可能かどうかだ。驚くべきことに,材料・生産の技術者たちは,この構造をフィルム上に塗布で作りこむ技術を実現してしまったのである。目標性能を達成し,商品化も果たした。考えてみれば,かつて会社の主力だった写真フィルムはハロゲン化銀の平板結晶が薄膜の中に精密に並ぶ構造だ。それを支えた技術者たちのDNAは脈々と生きていたのだ。
 ついに出来上がったのが写真で示す銀ナノ石畳である。たった十数nmの厚みしかない銀の石畳が光の往来を仕切っているのだから,たいしたものだ。それにしてもこの写真を見ていると,実にさまざまな個性を持った銀平板が集まっていることに気がつくだろう。強い思いを持つ多くの技術者たちが力を合わせて実現したこのプロジェクトを象徴しているようで,ずいぶんと感慨深いのである。

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