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生体の複雑な階層構造を模倣したナノシステム材料の可能性産業技術総合研究所 越崎直人

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 生体は,分子・DNA の1~10nmレベルから個体のm(メートル)オーダーレベルのサイズの範囲にわたる多段の階層構造体である。各サイズでの構成要素が有機的に組み合わさって上位の階層の構造体をかたちづくり,これにより生体のような超巨大なシステムが構築されている。一方で,nmスケールの機能を実際に手に取って使える大きさにするためには,単純にナノ構造を集めてmmスケールまで大きくしただけでは,多くの場合,ナノ構造に特異的な機能は失われたり弱められたりしてしまう。
 生体におけるタンパク質や細胞にあたる中間階層構造体を導入して,ナノ構造の機能を保持・安定化しながら高次の構造を集合・組織化することで,マクロなスケールで効率的にナノ構造の機能が利用できるようになると期待される。有機物質や高分子の世界では,このような生体の機能を模して階層構造体を得ようとする試みは多く進められてきているが,無機物質の世界ではリソグラフィー技術を利用した単純な階層構造の形成に限られていた。われわれは,生体に見られるような精緻なμmスケールからnmスケールに至る階層構造ナノシステムを制御しながら,安価に作製する技術の開発に成功した。
 図1は,特定サイズの球状粒子を規則的に配列させた単層コロイド結晶薄膜を多重積層し,これをテンプレートとして用いることによって得られた酸化銅(CuO)のマイクロ~サブマイクロ~ナノ三重階層構造である。この構造ではマイクロサイズの構造単位が凹凸をもった規則構造を形成し,その中にサブマイクロサイズの規則構造が埋め込まれ,さらにこのサブマイクロサイズの規則構造の中に微細なナノ構造が形成されている。この技術では,マイクロサイズ,サブマイクロサイズ,ナノサイズの構造を独立に制御でき,物質も容易に替えられることから,非常に汎用性の高い手法である。
 これまで作製が困難であった無機物質の多重な階層構造をもったナノシステムを人工的に作ることで,表面のぬれ性制御,多孔質触媒,分離膜,バイオ機能表面など,さまざまな分野への応用展開が期待される。また,ハスの葉や昆虫の目のもつ複雑な構造を模倣したバイオミメティック材料構築を可能とする新たなアプローチとしても,今後の展開が期待される。
 なお,本研究の詳細は,アメリカ化学会発行のACS Nano, Vol.5, No.12, p.9403(2011)を参照されたい。

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