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遠くの信号は効率よく,近くの信号はそれなりに生理学研究所 窪田芳之

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 脳には百億もの神経細胞があり,それらが複雑に連絡し合って神経回路を形成している。その神経細胞の突起は,電気信号を伝える電線の役割を果たしている。この電線が,神経細胞間の接続点であるシナプスを介して次の神経細胞に信号を伝えることで,脳のさまざまな機能が生まれている。信号を受ける側の神経細胞は,突起(樹状突起)上にあるたくさんのシナプスで信号を受け取り,その電気信号を統合して機能的な活動を営む。この神経細胞の微細な樹状突起構造の特徴を,最先端の電子顕微鏡技術を駆使して明らかにした。神経細胞は樹状突起のこの特徴的形状によって「遠い信号は効率よく受け取り,近くの信号はそれなりに」均一化して受け取ることができる仕組みを持っていることを見いだした。
 神経細胞の信号の伝搬には,樹状突起の形態特性が大きく関与していることが知られているにも関わらず,これまでその形状は正確には明らかにされていなかった。それを詳細に解析する目的で,今回,脳の大脳皮質にある4 種類の神経細胞を,最先端の電子顕微鏡技術を駆使して連続的に撮影し,3 次元再構築法を使ってその3D立体構造をコンピューター上で再構築した(図1)。そして,樹状突起の正確な構造を詳細に測定解析し,その形状にはいくつかの普遍ルールがあることを見いだした。
  • 樹状突起は,そこから先端部分にある樹状突起が長ければ長いほど太くなる。
  • 樹状突起の断面積は,分岐の前後で保存されている。
  • 樹状突起の断面は正円ではなくていびつな楕円形である。
この特徴的な構造は,樹状突起の細胞骨格であり細胞内の物質の輸送に携わっている微小管の分布が深くかかわっていることも証明した(図2)。この形に関する普遍的法則があることで,神経細胞は樹状突起上にある数千から十数万個のシナプス結合で受け取る信号を均等(遠い信号は効率よく受け取り,近くの信号はそれなり)に受けとることができることを,コンピューターを使ったシミュレーション解析で証明した。
 今回の技術を応用すれば,各種の脳変成疾患の神経細胞の樹状突起の形状がどのような病的な変化を起こし,それが神経細胞の信号の統合伝搬にどのような悪影響を与えているのかを解析でき,病態解明に貢献することが可能となる。

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