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ニンテンドー3DSで研究推進!奈良先端科学技術大学院大学 大門寛

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 この写真(図1)は,研究室の大学院生が発売中の3 次元表示できるポータブルゲーム機(ニンテンドー3DS)で遊んでいる写真ではなく,当研究室で撮影されたグラファイトの原子配列の立体写真を立体視して,原子の世界を体験しているところである。当研究室では世界で初めて原子配列の立体写真の撮影に成功していたが,これまで立体写真を立体視するには,高価な3Dテレビなど大型の装置と専用メガネが必要で,見ることができるのは一部の人に限られていた。このポータブルゲーム機は安価な3D表示器となっており,どこでも,あまり小さくない画面でメガネなしで簡単に立体視できる。この装置で表示できる形式の立体原子写真のファイルを大学のホームページ(http:// mswebs.naist.jp/LABs/daimon/index-j.html)に置いた。これにより,3DSを持っている人なら誰でも,日本だけでなく世界中の人がダウンロードして実際に撮影した原子の世界を立体的に体験することが可能になった。
 物質を構成する原子の並び方は,物の性質を決める重要な要素である。例えば,同じ炭素原子からできていても,ダイヤモンドと炭では色や固さ,電気抵抗までも極端に違う。これまではX 線回折で解析されていたが,直接見ることはできなかった。当研究室では,独自に開発した「2 次元表示型光電子分光装置」(図2)という分析器を用いて,世界で初めて原子配列の立体写真の撮影に成功した。
 この分析器は,試料から放出される電子のうち,あるエネルギーのものだけの放出角度分布を歪み無く広い角度範囲で表示できる。図2のような配置にして,左回りと右回りの円偏光X 線を試料に照射すると,光電子を放出した原子から見た周りの原子配列の立体写真を蛍光板に直接表示することができる。図3 (a),(b)はそのようにして実測されたインジウムリン(InP)結晶の立体写真である。(a),(b)の像をそれぞれ左右の目で見ると,図3 (c)のOで表示されたIn 原子から周りのA,B,Cの原子を見た原子配列を直視することができる。この場合,A 原子はB,C 原子よりも近くに見える。
 光電子を利用しているので,特定の原子の周りの構造を見ることができるため,ライフサイエンスにおける原子構造解析,ナノ機能物質の構造解析,触媒機構の解明など多方面への応用が期待される。また,図1,図3 (d)のようにポータブルゲーム機で見えるため,小学生でも原子の世界が体験できるようになり,理科好きな若者の増加に貢献し,ひいては日本の製造業の興隆にもつながることを期待している。

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