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軟X線レーザー干渉計で見るナノスケールの表面形状変化日本原子力研究開発機構 河内哲哉

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 軟X線レーザーは,1980年代に慣性核融合用の超大型レーザーを励起光源とした原理実証に成功した後小型化が進み,現在では商業ベースの励起レーザーで波長10 ~ 30nm,数ピコ秒の時間幅のレーザーが実現している。一方で,加速器をベースとした波長0.1nmのレーザー開発も世界的に行われており,今まさにコヒーレントX 線による新しい計測技術が生み出される土壌が整いつつある。例えば,物体の形状を高精度で測定する可視領域のレーザー干渉計はすでに産業分野で広く利用されているが,この干渉計が波長10nm の軟X 線レーザーで実現すれば,原子一層分(0.1nm)の形状変化を高い時間分解能で観察することが原理的に可能になる。
 軟X線を利用するときの一番の困難さは光学素子の効率である。軟X 線は,ほとんどの物質に吸収されてしまうからである。Mo とSi の多層膜鏡により,波長12 ~ 20nm の領域で例外的に60% 程度の反射率が得られているが,それとて,可視光のつもりで軟X 線を複雑な光学系に引き回せば,肝心の試料へ届くまでに光がなくなってしまう。筆者のグループと,東京大学,徳島大学の共同研究チームは,可能な限りシンプルな干渉計の光学配置を検討し,「ダブルロイズ鏡」と呼ばれる光学素子を用いた軟X線レーザー干渉計を開発した。ダブルロイズ鏡は斜入射の二枚の鏡を並べただけの単純な素子で,おのおのの鏡への入射角を微小な角度だけずらすだけで,軟X 線レーザービームを二つに分けた後に,お互いを検出器の位置で重ね合わせることができる。図1 は,この干渉計を用いて赤外線レーザーを金属表面に照射したときに,表面が融解・膨張していく様子を1nm の深さ方向の分解能と10 ピコ秒の時間分解能で撮像した例である1)。筆者の知る限り,今回のような深さ方向の分解能で金属表面の形状変化を時間分解観測した例はなく,観測から得られた膨張が始まる時刻や,各時刻でのその形状を理論計算と詳細に比較していくことで,レーザー加工の初期過程やその際のプラズマ発生の基礎過程が明らかになると期待される。
 現在の干渉計の深さ方向の分解能は,主に検出器の分解能で決まっているが,検出器技術は日進月歩で進んでおり,近い将来0.1nm の凹凸のダイナミクスを見る軟X 線レーザー干渉計が実現するであろう。この新しい技術がもたらすであろう高機能薄膜の成膜過程の観察や,物質の構造相転移ダイナミクスの観察等,産業応用や科学技術の新しい局面を考えると,その興味は尽きない。

参考文献

  1. T. Suemto, K. Terakawa, Y. Ochi, T. Tomita, M. Yamamoto, N. Hasegawa, M. Deki, Y. Minami and T. Kawachi:“Single-shot picosecond interferometry with one-nanometer resolution for dynamics surface morphology using a soft x-ray laser,” Optics Express, Vol. 18, No. 13, pp. 14114 ~ 14122(2010)

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