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多層カーボンナノコイルの合成豊橋技術科学大学 須田善行,滝川浩史

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 カーボンナノコイルとはラセン状のカーボンファイバーのことで,繊維直径は100 ~ 500nm,コイル直径は400 ~ 1000nm 程度である。そのコイル直径によってカーボンマイクロコイル,カーボンナノコイルなどと分類される。カーボンナノコイルと同様な繊維直径を持つが巻きがきつい形状(カーボンナノツイスト)もあり,これらを総称してヘリカルカーボンナノファイバー(Helical Carbon Nano-Fiber, HCNF)と呼んでいる。HCNF はそのラセン形状を活かして,電磁波吸収素子や接触センサーなどへ応用する研究が進められてきた。HCNF の合成は古くは1975 年にR. T. K. Baker らによって報告されており,カーボンナノファイバー研究の歴史の中でも比較的初期に登場している。HCNF の構造はアモルファス(非晶質)で,アセチレンなどの炭化水素ガスを原料とした触媒化学気相合成にて得られるが,触媒として炭素を溶解できる鉄などと炭素を溶解しない錫すずなどとを一緒に用いるのがポイントである。原料ガス中の炭素はいったん触媒中に溶解したのち過飽和状態を経てカーボンナノファイバーとして析出するが,炭素を溶解しない金属が混ざっていることで析出速度に差が生じてラセン形状が形成されると考えられている。
 筆者らはこれまでにHCNF を1 時間に3g 合成できる大量合成装置を開発し,電子放出源などへの応用開発を進めてきたが,HCNF がアモルファス構造のため,化学的,機械的に強度不足となることが問題となっていた。カーボンナノチューブ(直径1 ~ 50nm)はグラフェンシートを同軸円筒状に巻いた結晶構造を取ることから,HCNF も繊維直径を小さくすることで結晶構造が得られるのではないかと考えた。細いナノファイバーを得るにはHCNF 成長の起点となる触媒をナノ微粒子化することが重要で,筆者らはゼオライト上に鉄と錫とを担持することで,繊維直径が10 ~25nm,コイル直径が20 ~ 120nm とこれまでのHCNF と比べて10 分の1 に細線化することに成功した。この細線化HCNF を透過型電子顕微鏡で観察した結果が図1 で,内部には10 ~ 30 層のグラフェンシートが形成されていた。グラフェンシート面はファイバーの成長方向に沿っており,多層カーボンナノチューブがラセン状に成長したような構造である。そこで,細線化HCNF を多層カーボンナノコイルと名付けることとした。グラフェンシートは平面構造で,炭素原子が六角形の頂点に位置する六員環のネットワークであるが,これを曲げるためには炭素原子が過不足となった七員環や五員環が必要となる。カーボンナノチューブの先端がキャップ状に閉じた構造をしているのも五員環が存在しているためであり,多層カーボンナノコイルも七員環や五員環を含んでいると考えている。
 究極の細さを持つカーボンナノコイル,それはすなわち単層カーボンナノコイルである。理論的にはグラファイトと同様な半金属的物性を持つことが示されており,大変面白いナノ素材となるであろう。残念ながら,単層カーボンナノコイルの合成にはまだ至っていないが,カーボンナノコイルをどんどん細くかつ大量に合成するのを研究目標として学生と一緒に奮闘する毎日である。

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