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研究室探訪 vol.1 [東京大学 廣瀬・谷川・鳴海研究室]廣瀬 通孝 教授,谷川 智洋 特任准教授,鳴海 拓志 講師

あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は東京大学 廣瀬・谷川・鳴海研究室にお伺いしました。

人間と機械の接点を研究するヒューマンインターフェイス

コンピューターによって合成された人工的な世界を,身体感覚をもって体験することを可能とする技術がバーチャルリアリティ(VR)である。我々は感覚を通じて現実世界を認識しているわけだから,VR技術を研究開発していく上で感覚に関する知識が必要なことは言うまでもない。したがって,VRは計算機工学と心理学の境界領域に存在する技術だと言うこともできる。我々の研究室は,人間機械系,ヒューマンインターフェイスといった,「人間」とコンピューターを中心とした「機械」の接点を研究する研究室である。

廣瀬 通孝教授
主としてシステム工学,ヒューマンインターフェイス,バーチャルリアリティの研究に従事。工学博士。1996年,日本バーチャルリアリティ学会の設立に貢献し,会長を務めたのち現在同学会幹事,特別顧問。高い臨場感を有する情報メディアを実現するための技術開発や情報交換,異分野交流を目的として,超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム(URCF: Ultra-Realistic Communications Forum)を2007年3月に設立し,現在は会長を務める。URCFでは,高齢化や人口減少など,我が国の社会的変化と向き合いつつ,映像メディア技術の新しい展開を求めてきた。従来から推進してきた「先端映像技術」,「先端音響技術」などの分野を一層充実することはもちろんであるが,それに加えて新しい企業メンバーを募り,IoT,ビッグデータ,AI,感性や快適性などのような新しいキーワードを積極的に取り込むべく努力している。
超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム(URCF)のHP
http://www.urcf.jp/

谷川 智洋 特任准教授
イメージ・ベースト・レンダリング,MRに関する研究に従事。工学博士。超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム(URCF)実世界コンテンツワーキンググループ・リーダーを務める。臨場感体験や追体験を実現するVR/AR技術を公共空間,日常世界へと展開し,日常生活や地域に結びついた実世界コンテンツを研究している。

鳴海 拓志 講師
バーチャルリアリティや拡張現実感の技術と認知科学・心理学の知見を融合し,限られた感覚刺激提示で多様な五感を感じさせるためのクロスモーダルインターフェイス,五感に働きかけることで人間の行動や認知,能力を変化させる人間拡張技術等の研究に従事。工学博士。超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム(URCF)アフェクティブメディアワーキンググループ・リーダーを務める。人の価値判断の根底にある感性・情動を分析し,人の心に快適・感動・活力を生み出す感性創発技術を研究している。

[研究テーマ1] デジタルミュージアム

 ミュージアムにおけるデジタル技術の役割は,実物による「モノ」の展示に「コト」の側面を加え,鑑賞・体験・学習の融合した新しい展示を創出することである。研究室では,「モノ」と「コト」の融合した展示,鑑賞中だけでなく事前事後を含めた鑑賞体験の総合的なサポート,ミュージアムのためになるデジタル技術,の3つのコンセプトを柱として,バーチャルリアリティ技術を駆使したデジタルミュージアムの実現を目指した研究を行っている。例えば,「思い出のぞき窓」と呼ばれるシステムは,都市の街並みの中で,昔の風景写真や映像を現在の風景に重ねあわせて提示することのできる屋外型のAR展示システムである。この研究には,地域活性化や観光産業の振興など,社会的問題とも関連するテーマが含まれている。

[研究テーマ2] マルチモーダルからクロスモーダルへ

 VRの黎明期には,感覚のモダリティごとに提示装置(ディスプレイ)が研究開発されていた。例えば,触覚ディスプレイなどは代表的なものである。ペンが糸で引っ張られ,必要な力がそれを握る手先に伝えられるようなタイプや,ロボットハンドのようなごついタイプなど,いろいろな方式があった。こういう方式は複雑なハードウェアを必要とし,実用化にはだいぶん距離があった。しかし,21世紀初頭,「擬似触覚」(Pseudo Haptics)という概念が生まれた。これは視覚的刺激によって力覚を惹起しようという原理であり,大げさな機構なしに触覚提示が可能である。例えば,マウスで画面上のカーソルを操作するとき,通常であれば操作する手先に力を感ずることはない。しかし,カーソルの移動量を動的に変化させると,手先に力を感じるのである。場合によっては,突起を乗り越えたときのような感じを作ることさえできる。この現象を称して擬似触覚と呼ぶ。我々の五感は相互に関連しており,その仕組みを上手に利用することによって,驚くほど簡単な仕組みで,多様な感覚提示が可能である。

[研究テーマ3] 高齢社会とICT

 社会の高齢化は我が国最大の社会問題である。2050年には労働可能人口が50%ほどになってしまい,このままでは,ひとりがひとりを支える肩車型の社会になってしまうとさえ言われている。この問題の解決を技術によって行おうという発想はまだ十分には検討されていない。研究室では,超高齢社会におけるVRを中心とする先端的情報技術の応用可能性について研究している。例えば,VRやテレイグジスタンスを用いて,物理的に移動の困難な高齢者が,社会との接点を持ち続けるためのツールを開発し,シニア層の経験・知識・技能を活かす社会活性化のシステムを目指している。さらに,個人個人の個性や能力を組み合わせることによって,複数の高齢者からフルタイムの労働力を作り出すことのできるモザイク型就労システムなど,様々な可能性を実証実験へとつなげている。

廣瀬・谷川・鳴海研究室より

 『VRの応用展開先として最も有望なのは,教育とか訓練の分野ではないかと思っています。VRはシミュレーション的な側面を持つ技術ですが,もっとも特徴的な機能が,疑似体験を与えることです。百聞は一見に如かずという言葉がありますが,一体験は百見をしのぎます。これは身体的な技能の理解に限ったことではありません。概念の理解のような,一見身体と関係なさそうな局面でも体験は重要だと言われています。教育において,「体験する」ことの意味はもっと評価されるべきです。頭で理解することと体で理解することは違うのです。』

廣瀬通孝教授

東京大学 廣瀬・谷川・鳴海研究室
東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻
東京大学 工学部 機械情報工学科
住所:〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1
   東京大学工学部2号館 83D4
TEL:03-5841-6367(廣瀬教授室)/ 03-5841-8722(鳴海講師室)/ 03-5841-6369(学生室)
FAX:03-5800-6977
E-mail:cyber-contact@cyber.t.u-tokyo.ac.jp
URL:http://www.cyber.t.u-tokyo.ac.jp/ja/

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