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2011年11月21日

【特別招待講演 プレインタビュー】時代は今マッシブビジョンへ

イノインテック研究所 所長 山本 和彦(やまもとかずひこ)
1971年,東京電機大学 大学院修士修了。同年,通産省 電子技術総合研究所(電総研)入所。1979年,米国メリーランド大学 客員研究員。1988年,電総研 知能情報部画像研究室室長。1992年,筑波大学 連携大学院教授(併任)。1995年,岐阜大学 工学部応用情報学科教授。2010年,岐阜大学名誉教授・フェロー,イノインテック研究所所長。現在に至る。IAPRフェロー,電子情報通信学会フェロー。工学博士。日本科学技術情報センター丹羽学術賞,第6回画像センシングシンポジウム(SSII2000)論文賞受賞。

三つの手法を提示

聞き手:本日はよろしくお願いします。今回の国際画像機器展 2011の特別招待講演でお話しいただくテーマは「時代は今マッシブビジョンへ」ということですが,この「マッシブビジョン」という言葉の意味を,まずお教えいただけませんでしょうか?

山本:マッシブビジョンという考え方は,実は非常に当たり前の話なのです。街にカメラがあふれる,ネット上に膨大な画像データが蓄積されていく,そういう時代に翻ろうされることなく,それらを使いこなす技を準備していこうということです。これから市場が拡大して行くであろう画像の世界で生き抜くためにはどうしたら良いか,考えることです。
 そうした課題を解決するために,今回の講演では三つの手法を提示したいと思っています。まず一つ目は,昨今,増大し続けるコンピュータパワーを引き出し,有効に利用する方法です。二つ目は,ちょっと言葉が難しくなりますが,統計や学習という手法です。従来,「経験と勘」に頼って人がプログラムを組んでいた,その「経験と勘」とは何かということを明らかにします。まず,経験とはデータベースのことです。「どれだけたくさんのデータを見たか」ということです。一方,勘とは統計結果です。「この現象がどういうことを引き起こすか」と予測していくことです。両者をうまく組み上げて使って,プログラムのプロダクション(アップデート)を行います。この時,ネットワーク上にあふれているデータは大変有利に働きます。それは人が翻ろうされるべきものではなくて,有効利用できるものです。

聞き手:そう解釈すると,今まで得体の知れなかった「経験と勘」というものが分かりやすくなりますね。

山本:「学習」や「統計」と聞くといきなり逃げてしまう人もいますが,もしそれらを取り込まなかったら大変なことになるのです。なぜかというと,今後,アプリケーションがどんどん増えていきますが,単に増えるだけでなく非常に多様化していくからです。「ロングテール」と言ったら良いでしょうか。一つ一つのアプリケーションは小さいのですが,非常に多様性が出てくる。それらをいちいち従来の方法論でプログラムしていたら,コストパフォーマンスが悪くなります。今はそういう意味で,従来方法では手が付けられない市場がたくさん眠っています。
 大企業は,大きな市場がある時には対応力があります。でも,このような個別のコンシューマーに近く,かつロングテールのプロダクトにはなかなか着手できません。実はこういう市場に対しては中小企業や,新規参入組などの方が得意なのです。しかし,できることはできるのですが,まともに対応する,すなわち従来の方法論で作ろうとすると自沈してしまいます。ですからそうならないために,個別の課題を吸収するような枠組みが必要なのです。

聞き手:すでに深刻な問題になっていますね。

山本:確かにそうです。3番目の手法は,コラボレーションということです。ネットワークコラボレーション。要するに,いろいろな専門家がお互いにソフトウエアやプログラムを共有化して,ユーザーに近いところでプログラムをアップデートしていく。そうしたネットワークとコラボレーションの枠組みが大事ということです。
 講演の中で,最後の10分程度でスマートフォンを使ったデモンストレーションを見せたいと考えています。3番目のケースを示すために,今話題のアンドロイド上で動く,文字認識と言語処理を統合して情景中の外国語にカメラを向けて日本語に翻訳するプログラムのデモを実施する予定です。これは,画像認識の専門家が専門家に向けてプログラムを作るという昔ながらのやり方から,専門家が作って素人が使えるプログラム開発の方向に変える一環でもあるのです。玄人向けに比べて素人向けの市場は膨大ですから,そういう市場に向けて一般人がある程度パッケージを使って実現するようなソフトの一例として見せたいと思っています。

聞き手:そうしたデモはいいですね。聴講者の皆さんがきっと興味を持って見てくれると思います。

山本:このデモ,あたかもスマートフォンがネットとつながって処理しているように見えるのですが,実は彼らが開発したプログラムは,スマートフォンの中だけで処理しているのです。それにもかかわらず,瞬時に結果が出ます。「だからスマートフォンは強力だ」という最初の手法の例も皆さんにお示しできると思います。ご存じのように,昔の携帯電話では考えられないような処理能力を今のスマートフォンや携帯電話は持っているのです。

すそ野を広げることが先決

山本:ここで示した例は文字認識のアルゴリズムや翻訳プログラム自体が最適というわけではありません。でも,それらをうまく組み合わせて,新たな市場を開拓するという手法や意気込みが大切だと思います。パターン認識や画像処理に対するコンピューター技術がどうこうというように大上段に振りかぶるのではなく,ネット上のパッケージを組み合わせて課題解決をしていくようなアプローチが,今,必要になっているということなのです。
 画像処理のアルゴリズムなどは,延々と何十年も多くの方々が築き上げてきていますね。だから,そこでさらにそれらに打ち勝つようなものを作り出そうとすると,学生の間の2~3年では無理です。ところが,既存のパッケージを組み合わせて作ってみろと言うと頑張りますよね。それで「できました!」,「おお,すごいじゃないか」という風に今は,大学でやっているのです。学会発表だけを目指すようなものではなく,「もっとオタクな人や違うフィールドの人たちに画像技術を解放したらどうですか」という提案なのです。

聞き手:画像処理プログラムのオープン化の流れですね。

山本:そのために,プログラムを作るのは玄人ですが,素人が分かるプログラムにしていきます。素人なり,セミ玄人なり,そういう人たちを巻き込んで,興味を持って画像の市場へどんどん入ってこれるような枠組みを用意すれば,膨大なアプリケーションフィールドを抱え込むことができるだろうと考えています。今までは,専門家が作っていたがゆえにロングテールの部分を切らざるを得なかったのです。大企業にしてみれば,100億円の市場がないと開発できないと言いますが,市場の形が変化している時に,相変わらず同じ手法を続けていけるか疑問なのです。

聞き手:そうなると,今までの大企業のビジネスモデルは成り立たなくなりますね。

山本:確かにそう言えば,大企業は「これはもうからない市場になる」と逃げてしまうかもしれません。だけど私は,それは違うと思います。むしろ,すそ野が広いかどうかが問題です。素人や入門者がある程度の市場を作ります。だけど,彼らじゃできないことはいっぱいありますから,そうするとそれより専門家がさらに上のレベルの開発を行う。そういう意味で,実力の各階層によって中小企業から大企業までがかかわりながら,一方でちょっとしたアップグレードならば末端ユーザーもかかわれるような,そうした市場の枠組みを考えています。

聞き手:「画像処理にはいろいろなチャンスがある」と言われた割には,今は大きなマーケットを見失ってしまったような沈滞感がありますね。

山本:そこが問題なのです。もともと大きな市場を目指して作られてきた画像の世界の枠組みですが,単一の市場を追っかけている限り,閉塞感にさいなまれることになります。そうじゃなくて,一つ一つは小さいが,多様性に対処できる点が逆に期待されるのです。規模が小さい時にコストパフォーマンスが合わなくなるという問題は,今回提示する三つの手法で解いていくのです。

多様性社会の出現

聞き手:「マッシブビジョン」の「マッシブ」という言葉はどんなところから出てきたのですか?

山本:ビジョンのフィールドを大きくする,強力にするための方策の意味を込めてその言葉を選んでいます。さらに言えば,「多様性の時代」ということです。

聞き手:多様性の時代とはどういう意味でしょうか?

山本:「大きいことはいいことだ」という恐竜時代の終えんですね。そして,多様性を持った哺乳類の時代へ。哺乳類は小さいですが,結局,そのフレキシブル性によって生き残り,世界を支配した,それがいわゆる「市場のマッシブ化」ということなのです。大企業だけが生き残るわけではないということを言いたいのですが,なかなかこれが伝わらないので,いつもは以下のように言っています。
 ネットワーク上に多くのデータが蓄積され,そこにたくさんの人が寄り集まってアルゴリズムの多様性を進めるということです,と。コンピューターのパワーもある意味ではすでにマッシブなのです。「そういうものをうまく引き出していくことだ」と言えば一般の人に理解してもらえます。話を最後まで聞いた時に,実はそれだけじゃなくて市場の問題を言っているんだと分かってもらえるのが理想です。

聞き手:一つ一つをうまくつなげていくことで,ビジョン市場を広げていこうというお考えですね。

山本:そうです。ビジョンの市場をマッシブにしたいのです。

聞き手:私たちも同様にしたいと考えています(笑)。

山本:若い人たちがそれを受けて,具体的に「どうしよう」と考えてくれれば良いのです。ですから私は,これらの言葉をキーワードとして世に出しているのです。

聞き手:大変興味深いお話になりそうですね。ご講演を楽しみにしています。本日はお忙しい中,ありがとうございました。

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